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  今、問題となっている害虫 「コナジラミ」(その2)    

     ー発生状況と防除対策ー             (その1へ) 

 コナジラミとその媒介ウイルス病(トマト黄化葉巻病)による被害が増大している中で、2006年6月に農林害虫防除研究会第11回大会が千葉大学で開催された。この大会では「コナジラミ類による被害の拡大と防除対策」というテーマでシンポジウムが催された。そこでは、下記の7題の講演が行われ、最近のコナジラミ類の発生状況と防除対策が、現場に即して詳しく発表された。さらに、一般講演でもコナジラミ類に関する講演が4題あった。

シンポジウム講演のタイトルと講師

1.タバココナジラミの発生状況と今後の課題 
                           (独法)野菜茶業研究所/本多健一郎 

2.コナジラミ類が媒介するウイルス病の種類と特徴およびタバココナジラミバイオ
  タイプQの簡易同定法           (独法)九州沖縄農業研究センター/上田重文 


3.コナジラミ類の薬剤感受性について  全農・営農技術センター/小林政信 


4.熊本県におけるトマト黄化葉巻病及びタバココナジラミ類の発生と防除対策
                            熊本県農業研究センター/行徳 裕 

5.高知県におけるトマト黄化葉巻病及びコナジラミ類の発生と防除対策
                            高知県農業技術センター/広瀬拓也 

6.静岡県におけるトマト黄化葉巻病及びコナジラミ類の発生状況と防除対策
                            静岡県農業試験場/杉山恵太郎 

7.千葉県におけるトマト黄化葉巻病及びタバココナジラミ類の発生と防除対策  
                千葉県農業総合研究センター/大井田寛・久保周子・津金胤昭 

 概要

<タバココナジラミ・バイオタイプQの発生と簡易同定法等について>

 タバココナジラミ・バイオタイプQは、イベリア半島原産であり、そこでラノーやネオニコチノイド系などの殺虫剤に対して高い抵抗性を発達させていること、西日本を中心に分布域の拡大を続けており、2006年6月までに29都府県で発生が確認されたこと、寄主植物は28科75種以上であること、トマト黄化葉巻病ウイルスを高率で媒介すること、タバココナジラミは40以上の系統(バイオタイプ)からなる種複合体と考えられていることなどがレビューされた(本多)。

 タバココナジラミ・バイオタイプQは、タバココナジラミ・バイオタイプB(シルバーリーフコナジラミ)と形態的に判別することが困難である。そのため、ミトコンドリア・チトクロームオキシダーゼ(mtCOT)遺伝子領域(DNA)を用いて分子解析したところ、2004年に広島県三原、熊本県西合志、鹿児島県宮之城及び大口でサンプリングされたコナジラミから、タバココナジラミ・バイオタイプQの存在が確認された。さらに、バイオタイプQを検出するための簡易同定法として、バイオタイプに特異的な制限酵素部位切断によるPCR-RFLP法が提案された(上田)。

 各地でタバココナジラミ類の検定が行われ、熊本県では2005年に施設野菜から採集されたタバココナジラミは全てバイオタイプQであった。これは、従来多用されたネオニコチノイド系殺虫剤やラノーに対して、バイオタイプBは感受性が高いが、バイオタイプQは感受性が低いために、淘汰圧がかかってバイオタイプQに置換されたと考えられた(行徳)。千葉県でも2005年に14地点から採集されたタバココナジラミはほとんどバイオタイプQであった(大井田ら)。神奈川県では2005年に25個体群のタバココナジラミが採集されたが、このうち、15個体群がバイオタイプQ、8個体群がバイオタイプB、その他は両者の混在であった(神奈川県農業技術センター・大矢ら)。

<タバココナジラミ・バイオタイプQの薬剤感受性について>

 タバココナジラミ・バイオタイプQに対する薬剤試験が行われた結果、ネオニコチノイド系殺虫剤の間で感受性に差があり、ベストガード水溶剤、スタークル(別名アルバリン)顆粒水溶剤で高い活性が認められ、その他の殺虫剤ではサンマイトフロアブルやマクロライド系殺虫剤の一部(効果試験中)にも高い活性を認められた(小林)。シルバーリーフコナジラミに対して高い活性を示すネオニコチノイド系殺虫剤の一部(アドマイヤー)、チェス、トレボン及びラノーが、タバココナジラミ・バイオタイプQに対して感受性が低く(効果が低く)なっていた(小林、行徳、広瀬からまとめる)。

<トマト黄化葉巻病対策について>

 コナジラミが媒介するトマト黄化葉巻病の主な伝染源はトマトであるので、熊本県ではその伝染環を絶つために、コナジラミをハウス外に出さない、ハウス内に入れない、ハウス内で増やさないことを基本とした総合的な対策を講じることによって被害面積が減少した(行徳)。
 
 具体的には、ハウス内に入れない方法として、病害虫のいない健全苗の育成、防虫ネットの設置、近紫外線除去フィルムによる被覆、次期作へコナジラミを持ち越さないように1ヶ月以上施設を空ける、ハウス内にトマト以外の植物を置かない、同じ施設内で他の作物を同時に栽培しない、ハウス周辺の雑草を除去する、ハウス内で増やさない方法として、定植時に粒剤処理をする、効果の高い殺虫剤を定期的に散布する、発病株の除去、ハウス外に出さない方法として、栽培終了時にハウスを密閉して蒸しこみをするなどの方法がある(行徳、広瀬、杉山、大井田らをまとめる)。高知農業技術センターの高橋は、トマト黄化葉巻病の総合防除として、近紫外線除去フィルム、防虫ネット(目合0.4mm)の側窓、天窓への展張、健全苗の定植、薬剤防除を行うことにより、コナジラミの発生をごく低密度に抑え、同時に本病の発生を抑えることができた。

<コメント>

 トマト黄化葉巻病ウイルスとその媒介虫を施設内に入れないことを基本に、もし、入ったとしても薬剤防除で初期のうちに抑えてしまうことにより、本病による被害をほとんど抑えることが出来そうである。ただ、気温が上がって来た時に、目合の細かな防虫網の設置により施設内部の気温が上昇するのを防ぐことが必要であり、害虫の入らない排気扇、ドライミスト、遮光ネットなどの設置を考える必要があろう。また、近紫外線除去フィルムの種類によっては、セイヨウオオマルハナバチの活動に影響することがあるので注意を要する。

           
農林害虫防除研究会はこちら

 関連情報: 野菜茶業研究所HPの野菜茶業研究集報 
         本多(2006) 「トマト黄化葉巻病と媒介コナジラミ防除法を巡る研究情勢と問題点

「今、問題となっている害虫「コナジラミ」(その1)」
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